物語で読み解くデリバティブ入門

by syoyo

物語で読み解くデリバティブ入門
http://www.amazon.co.jp/dp/4532352509/

本書では、一本一億円のソフトウェア [1] も取りあげています。
が、その取り上げかたには問題となる記述があります。
本書では、それはでたらめな乱数を収録したものであると記述してあるのです。

1995 年 9 月、日本とアメリカの IBM は重大な発表をしました。
まったくランダムな数値 200 万個を一億円で販売する、と発表したのです。

えっと、これって [1] でも取り上げているように、
手塚先生の LDS(Low Discrepancy Sequence) のことじゃないんですか?

[1] のときは確証がありませんでしたが、この本で年月が指定されていたので調べたところ、
たしかに手塚先生の LDS が 1995 年 9 月 27 日に Deterministic Simulation Blaster
という名前で発表されています [2]。
さらに [2] では確かにこの Deterministic Simulation Blaster の中身は実際には数列のテーブルだと記述されています。

たしかに、1990 年代は LDS だけでなく、
Mersenne Twister などの疑似乱数もファイナンスの分野で再度注目されはじめていたようですが、
この LDS の発表と同じくらいインパクトがあって IBM から発表されて、一億円の値がつくような、
(疑似)乱数がらみの発表はあったのでしょうか?たぶん無いでしょう。

LDS は(疑似)乱数ではありません。つまりでたらめな数字ではないのです。
LDS は積分の収束を早めるためにデザインされた数列であり、
でたらめさというのはまったくもって要求されていません

私も最初は LDS は疑似乱数よりもよりよいでたらめさを持つような数だと誤解していました。
「計算統計 I」の手塚先生の article を見て、LDS はでたらめな数字ではないんだ、と理解しました [3]。

この本は入門書という位置づけであり、
それほど突っ込んだ話というのは求められていません。

しかし入門書である以上、たとえばこの本を呼んでファイナンスを目指す学生も多くいるはずです。
すくなくとも著者はその道の専門家のようですから、
間違った道を教えてしまわないように、内容は正確に記述しておくべきです。
(まぁ単純に著者が LDS と(疑似)乱数の区別が分かっていないのでは、ということもあり得ますが)

そうしないと私のようにずっと LDS について誤解したままという状況になってしまいかねませんからね。

[1] http://lucille.atso-net.jp/blog/?p=258
[2] Monte Carlo loses out to IBM’s Blaster
http://www.cargonewsasia.com/timesnet/data/ab/docs/ab0916.html
[3] http://lucille.sourceforge.net/blog/archives/000336.html

[4] FlexViewディスプレイとドットパターン技術
http://www.trl.ibm.com/people/ide/dotpattern.htm
「ウォール街を動かすソフトウェア」についての記述がある。
[5] 準モンテカルロ法を利用したデリバティブ価格付け
http://www.research.ibm.com/trl/projects/optsim/riskmng/LDS/lds.htm

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